暑い夏の夜だった・・・

 

小さな食料品店を営んでいた我が家の毎夏の盆休みは、母方の実家に里帰りが恒例となっていた。

 

記憶に乏しいが、母が運転する軽自動車でわたしと姉を連れ立って、先に里入りをして、

翌日に父が遅れて来ていたように記憶している。

 

父は母方の里が居心地よく、いつも歓迎し迎え入れてくれる母の親族と好きな酒を酌み交わすのが

楽しみだったようだ。

 

また今夏もやってくる待ち遠しい盆休み

 

その年の夏の夜

翌日に海に行くことにわくわくさせた少年(わたし)と少女(姉)が蚊帳の中で寝床につく

 

突然かかってきた電話

寝ぼけ眼の私と姉は突然、母の車で家へ舞い戻ることになる

 

何やらただよらぬ予感

母の里の親戚も同行した

 

帰り着いたシャッターを開けた自営の中は慌ただしい空気ととどよめき

子供心に、店の奥から見えた小さな座敷に横たわり白いハンカチが顔に被さっていた光景を目の当たりに

 

ただそれが父だとは未だわからなかった

 

それが父だと知らされてもまだピンときてない9歳の少年

 

姉は「こわい、こわい!」と言って母方の従姉妹にすがりつく

 

その時の幼い少年は

葬儀の身支度に慌ただしくしている母に「明日海に行かれんと???」とつぶやく

 

母は気丈に

「お父さんが亡くなったとよ・・・」

 

享年39歳・・・

死因、脳溢血

 

お盆明けの17日の出来事だった・・・。

 

父は、孤高の人だった やさしい父だった 仏様のような人だったと父を知っている親族らは云う 

 

懸命に寡黙に働いていた父の姿と酒を飲んでいた父しか知らなかった

 

わたしにとっての父の印象はのちに

「高倉 健」 と 「ブルース・リー」 を彷彿とさせる

 

遠い記憶の忘却の彼方に在るだけの父の存在

 

父の年齢をはるかに越えてしまった今・・・

 

逝った39歳の当時の父と 酒を酌み交わしてみたい